消化器内科
自己免疫性胃炎
自己免疫性胃炎とは、本来は体を守る免疫が、誤って自分自身の胃の細胞(壁細胞)を攻撃してしまうことで起こる慢性的な胃炎です。主に胃の上部(胃体部・胃底部)を中心に炎症や萎縮が進行します。
自己免疫性胃炎とは
一般的な慢性胃炎の多くはピロリ菌感染が原因ですが、自己免疫性胃炎はピロリ菌とは異なる仕組みで起こる病気です。そのため、診断や治療、経過観察の方法も通常の慢性胃炎とは異なります。
自己免疫性胃炎は、以前はまれな病気と考えられていました。しかし近年は胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)の普及により発見される機会が増え、健常人を対象とした内視鏡検診では0.49~0.89%の有病率が報告されています。
中高年に多く、女性にやや多いとされています。初期にはほとんど症状がないため、健康診断や胃カメラで偶然見つかったり、原因不明の貧血やビタミンB12不足をきっかけに診断されることも少なくありません。
自己免疫性胃炎の原因は?
自己免疫性胃炎は、本来は体を守る免疫が、誤って胃酸を分泌する細胞(壁細胞)を攻撃してしまうことで起こる病気です。
壁細胞が障害されると、胃酸の分泌が低下します。また、壁細胞から分泌される**「内因子」**という物質も減少します。
内因子は、食事から摂取したビタミンB12を小腸で吸収するために欠かせない物質です。そのため、内因子が不足するとビタミンB12が十分に吸収できなくなり、**悪性貧血(ビタミンB12欠乏による貧血)**を起こすことがあります。
また、胃酸の分泌が低下すると、それを補おうとしてガストリンというホルモンが増加し(高ガストリン血症)、自己免疫性胃炎に特徴的な血液検査所見の一つとなります。

自己免疫性胃炎の主な症状
自己免疫性胃炎は、初期にはほとんど自覚症状がないことが多い病気です。そのため、健康診断や胃カメラで偶然見つかることも少なくありません。
病気が進行すると、壁細胞の障害によってビタミンB12の吸収が低下し、悪性貧血をきたすことがあります。また、鉄欠乏を伴うこともあり、貧血や栄養不足に伴う症状が現れることがあります。
主な症状としては、次のようなものがあります。
- 倦怠感
- 動悸・息切れ
- めまい
- 手足のしびれ(ビタミンB12欠乏による)
- 舌の痛み・赤くつるつるした舌(舌炎)
これらの症状は、胃炎そのものによる症状ではなく、ビタミンB12不足や貧血によって起こることが特徴です。
自己免疫性胃炎の診断は?
自己免疫性胃炎は、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)と血液検査の結果を総合して診断します。
胃カメラ(胃内視鏡検査・上部消化管内視鏡検査)
胃カメラでは、胃の上部(胃体部・胃底部)を中心とした特徴的な萎縮がみられます。
この萎縮の広がり方は、ピロリ菌感染による萎縮性胃炎とは異なることが特徴であり、自己免疫性胃炎を疑う重要な所見になります。
また、必要に応じて胃の組織検査(生検)を行い、診断の参考にすることもあります。
血液検査
血液検査では、必要に応じて以下の項目を調べます。
- 抗壁細胞抗体
- 抗内因子抗体
- ビタミンB12
- ガストリン
- 鉄や貧血の評価
これらの検査結果と胃カメラの所見を組み合わせ、総合的に診断します。
合併症について
自己免疫性胃炎では、悪性貧血、胃神経内分泌腫瘍(胃NET)、胃がん、他の自己免疫疾患などを合併することがあります。そのため、定期的な経過観察が大切です。
悪性貧血
壁細胞が障害されることで内因子の分泌が低下し、ビタミンB12が十分に吸収できなくなると、悪性貧血を起こすことがあります。
みられる症状
- 倦怠感
- 動悸・息切れ
- めまい
- 手足のしびれ
ビタミンB12を補充することで改善が期待できます。
他の自己免疫疾患
自己免疫性胃炎では、橋本病などの甲状腺疾患をはじめ、他の自己免疫疾患を合併することがあります。
そのため、症状や採血結果に応じて甲状腺機能などを確認することがあります。
胃神経内分泌腫瘍(胃NET)・胃がん
自己免疫性胃炎では、胃神経内分泌腫瘍(胃NET)や胃がんを発症するリスクが一般の方より高くなることが知られています。
しかし、自己免疫性胃炎と診断されたからといって、必ず胃NETや胃がんになるわけではありません。
定期的な胃カメラを受けることで、早期発見・早期治療につながることが期待できます。
自己免疫性胃炎の治療
自己免疫性胃炎そのものを根本的に治す治療法は、現在のところ確立されていません。
そのため、ビタミンB12欠乏や貧血などの合併症への対応と、定期的な経過観察が治療の中心となります。
必要に応じて次のような治療を行います。
- ビタミンB12の補充(内服薬または注射)
- 貧血の治療
- 定期的な胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)
患者さん一人ひとりの病状や合併症に応じて、治療内容や検査の間隔を決定します。
日常生活で気をつけること
自己免疫性胃炎と診断されても、多くの方は普段どおりの生活を送ることができます。
特別な食事制限や生活制限はありませんが、次の点を心掛けましょう。
- 定期的な受診・検査を継続する
- 倦怠感や手足のしびれなどの症状を見逃さない
- 他の自己免疫疾患(橋本病など)がないか必要に応じて確認する
- 医師と相談しながら長期的に経過をみていく
自己免疫性胃炎は長く付き合っていく病気ですが、適切な経過観察を続けることで、多くの方が安心して日常生活を送ることができます。
受診・検査の目安
次のような場合には、自己免疫性胃炎の可能性があります。
- 原因不明の貧血を指摘された
- ビタミンB12不足と言われた
- 胃カメラで強い萎縮を指摘された
- ピロリ菌陰性にもかかわらず萎縮性胃炎があると言われた
このような場合は、お気軽に当院へご相談ください。
よくある質問
自己免疫性胃炎は治る病気ですか?
現在のところ、自己免疫性胃炎そのものを治す治療法はありません。しかし、多くの方は定期的な胃カメラや血液検査を受けながら、普段どおりの生活を送っています。ビタミンB12欠乏や貧血がある場合は、適切な治療によって改善が期待できます。
自己免疫性胃炎になると寿命は短くなりますか?
自己免疫性胃炎と診断されたこと自体で、寿命が短くなるわけではありません。 多くの方は適切な経過観察を続けながら、普段どおりの生活を送っています。ただし、悪性貧血や胃がん、胃神経内分泌腫瘍(胃NET)などの合併症に注意が必要です。定期的な胃カメラや必要に応じた血液検査を受けることが大切です。
自己免疫性胃炎になると必ず胃がんになりますか?
いいえ、必ず胃がんになるわけではありません。 自己免疫性胃炎では、胃がんや胃神経内分泌腫瘍(胃NET)のリスクが一般の方より高くなることが知られていますが、多くの方が発症するわけではありません。定期的な胃カメラを受けることで、早期発見・早期治療につながることが期待できます。
悪性貧血とはどのような病気ですか?
悪性貧血は、自己免疫性胃炎によって内因子が不足し、ビタミンB12が十分に吸収できなくなることで起こる貧血です。「悪性」という名前が付いていますが、がんとは全く別の病気です。ビタミンB12を補充することで改善が期待できます。
家族にも遺伝しますか?
自己免疫性胃炎そのものが直接遺伝する病気ではありません。ただし、自己免疫疾患になりやすい体質には遺伝的な要因が関係していると考えられています。ご家族に自己免疫疾患がある場合でも、過度に心配する必要はありません。
症状がなければ通院しなくてもよいですか?
自己免疫性胃炎は初期にはほとんど症状がありません。しかし、貧血やビタミンB12欠乏の有無を確認したり、胃がんや胃神経内分泌腫瘍(胃NET)を早期に発見したりするためにも、担当医と相談しながら定期的に受診・検査を受けることが大切です。
自己免疫性胃炎は、本来体を守る免疫が自分自身の胃を攻撃してしまう病気です。
初期には症状がほとんどなく、健康診断や胃カメラで偶然見つかることも少なくありません。
ビタミンB12欠乏による悪性貧血や、胃がん・胃神経内分泌腫瘍(胃NET)などの合併症に注意が必要です。
定期的な胃カメラや血液検査を続けることで、多くの方は安心して日常生活を送ることができます。
ピロリ菌陰性にもかかわらず萎縮性胃炎を指摘された方や、原因不明の貧血・ビタミンB12不足を指摘された方は、一度消化器内科にご相談ください。
