消化器内科
前皮神経絞扼症候群(ACNES)
ACNESは、腹壁痛(お腹の壁の痛み)の代表的な病気で、お腹の筋肉や皮膚を走る神経(前皮神経)が締めつけられることで痛みが生じます。胃や腸などの内臓ではなく、腹壁の神経が痛みの原因であることが大きな特徴です。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)とは
ACNESは、胃や腸などの内臓ではなく、腹壁の神経が痛みの原因であることから、血液検査やCT検査、胃カメラ・大腸カメラなどで異常が見つからず、「原因不明の腹痛」や「ストレスではないか」と言われ、長期間つらい思いをされている方も少なくありません。
ACNESは決して珍しい病気ではありませんが、まだ十分に知られておらず、診断に至っていないケースも多いとされています。長く続く腹痛でお困りの方は、一度この病気の可能性も考えてみることが大切です。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)の主な症状
ACNESの痛みには、ほかの腹痛とは異なるいくつかの特徴があります。
- お腹のある一点が痛み、指一本で痛い場所を示せるほど限局している
- 押すと強い痛み(圧痛)がある
- 起き上がる、体をひねる、咳やくしゃみ、歩行など、お腹に力が入る動作で痛みが強くなる
- 食事や排便との関連は少ない
- 数か月から数年にわたって痛みが続くことがある
痛みの部位は、へその周囲から下腹部に多くみられ、左右どちらか一方に生じることが一般的です。
また、痛みの性質は「刺すような痛み」「ズキッとする痛み」「電気が走るような痛み」と表現されることがあります。
一方で、発熱や激しい下痢、嘔吐などの症状は通常みられません。そのため、内臓の病気とは異なる特徴を示すことが多く、胃カメラや大腸カメラ、CT検査などで異常が見つからない場合には、ACNESを含めた腹壁痛も考慮することが大切です。
どのような方に多い病気なのか
ACNESは決して珍しい病気ではなく、慢性的な腹痛の原因の数%~10%程度を占めると報告されています。しかし、まだ十分に知られていないため、実際には診断に至っていないケースも少なくありません。
年齢や性別を問わず発症しますが、30~50歳代の女性に比較的多いとされています。
- 妊娠・出産後
- 腹部手術後
- 急激な体重変化
上記をきっかけに発症することがあります。一方で、特別なきっかけがなく発症することも少なくありません。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)の原因
腹壁には、背骨から出た神経が肋骨の間を通り、お腹の筋肉(腹直筋)の中を走って皮膚まで達しています。この神経のうち、皮膚へ向かう前皮神経が、腹直筋を包む筋膜を貫く部分で圧迫・絞扼されることで痛みが生じると考えられています。
神経は圧迫されることで刺激を受け、動いたり腹筋に力が入ったりするたびに痛みが誘発されます。そのため、安静時よりも起き上がる動作や咳、くしゃみ、体をひねる動作などで痛みが強くなることがあります。
発症のきっかけ
- 姿勢の変化や腹筋への負担
- 急激な体重の増減
- 妊娠・出産
- 腹部手術や外傷
などが挙げられますが、はっきりした原因が見つからないことも少なくありません。

前皮神経絞扼症候群(ACNES)の診断
ACNESは、問診と診察が最も重要な病気です。血液検査やCT検査だけで診断できる病気ではなく、痛みの特徴や診察所見を総合して診断します。
まず、痛みの場所が指一本で示せるほど限局していることや、その部位を押すと強い痛み(圧痛)があることを確認します。
さらに、Carnett(カーネット)徴候と呼ばれる診察を行います。患者さんに腹筋へ力を入れていただいた状態で痛む場所を押し、痛みが変わらない、あるいは強くなる場合は、腹壁が痛みの原因である可能性が高いと考えられます。
一方で、胃や腸などの内臓の病気でも腹痛は起こるため、症状に応じて血液検査、CT検査、胃カメラ、大腸カメラなどを行い、ほかの病気が隠れていないかを確認することも大切です。
また、痛みの原因となっている部位へ局所麻酔薬を注射(トリガーポイント注射)し、一時的に痛みが改善する場合には、診断の助けとなることがあります。
このように、問診・診察・必要な検査を組み合わせて総合的に診断します。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)の治療
ACNESの治療は、神経への刺激を和らげて痛みを改善することを目的に行います。
局所麻酔薬の注射(トリガーポイント注射)
最も一般的な治療は、痛みの原因となっている部位に局所麻酔薬を注射する治療(トリガーポイント注射)です。
この注射により神経への刺激を和らげ、痛みの改善が期待できます。また、注射後に痛みが軽減した場合は、ACNESの診断を裏付ける所見にもなります。
1回の注射で症状が改善する方もいれば、症状に応じて複数回の治療を行うこともあります。
保存的治療
症状によっては、痛み止めや神経障害性疼痛に対する内服薬を使用することがあります。また、腹部へ過度な負担がかかる動作を避けるなど、日常生活での工夫が症状の軽減につながることもあります。
専門医療機関での治療
保存的治療や注射を行っても十分な改善が得られない場合には、ペインクリニックや外科などの専門医療機関で、より専門的な治療が検討されることがあります。
しかし、多くの患者さんでは、局所麻酔薬の注射を中心とした治療で症状の改善が期待できます。
ACNESが疑われる腹痛
次のような腹痛がある場合には、ACNES(前皮神経絞扼症候群)の可能性があります。
- 胃カメラや大腸カメラ、CT検査などで異常がないと言われたが、腹痛が続いている
- 痛む場所を指一本で正確に示すことができる
- 押すと痛みがあり、体を動かしたり、お腹に力を入れたりすると痛みが強くなる
- 食事や排便との関連が少ない
- 何度も医療機関を受診しているが、原因が分からないと言われている
このような症状がある場合でも、腹痛の原因がすべてACNESとは限りません。胃や腸、胆のうなどの病気が隠れていることもあるため、まずは内臓の病気がないかを確認することが大切です。
一方で、検査では異常が見つからない腹痛の中には、ACNESのような腹壁痛が原因となっていることがあります。
「検査では異常がないと言われたけれど、お腹の痛みが続いている」という方は、一人で悩まず、お気軽に当院へご相談ください。
よくある質問
前皮神経絞扼症候群(ACNES)は自然に治りますか?
軽症の場合には自然に症状が改善することもありますが、数か月から数年にわたり痛みが続くこともあります。
痛みが長引く場合は日常生活に支障をきたすこともあるため、我慢せず医療機関へ相談することをおすすめします。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)は何科を受診すればよいですか?
まずは消化器内科の受診をおすすめします。
ACNESは腹壁の神経が原因となる病気ですが、胃や腸、胆のうなどの病気でも腹痛は起こります。そのため、痛みの特徴や診察所見からACNESを含めた腹壁痛の可能性を評価し、必要に応じて検査を行い、内臓の病気が隠れていないか確認することが大切です。
当院では、腹痛の原因を丁寧に診察し、必要に応じて血液検査や胃カメラ・大腸カメラ、CT検査などを行いながら診断しています。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)を放置しても大丈夫ですか?
ACNES自体が命に関わる病気になることはほとんどありません。
しかし、慢性的な痛みにより仕事や家事、運動など日常生活へ大きな影響を及ぼすことがあります。
また、「ACNESだと思っていたら別の病気だった」という可能性もあるため、腹痛が続く場合には自己判断せず、一度医療機関を受診しましょう。
検査で異常がない場合、 前皮神経絞扼症候群(ACNES)の可能性はありますか?
はい、あります。
ACNESは腹壁の神経が原因となるため、血液検査やCT検査、胃カメラ、大腸カメラなどでは異常が見つからないことが特徴の一つです。
内臓の病気が否定されたあとも腹痛が続く場合には、ACNESを含めた腹壁痛の可能性も考えることが大切です。
トリガーポイント注射は痛いですか?
注射を行う際には一時的な痛みがありますが、多くの場合は短時間で終了します。
局所麻酔薬を使用するため、注射後に痛みが軽くなることで診断や治療につながることがあります。
ご不安な点があれば、診察時にお気軽にご相談ください。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)は再発することがありますか?
一度改善しても、再び症状が現れることがあります。
一方で、多くの方では適切な治療によって症状の改善が期待できます。
再発した場合も、以前と同様に診察を受けていただくことで、状態に応じた治療をご提案します。
手術が必要になることはありますか?
多くの患者さんでは、トリガーポイント注射などの保存的治療で症状の改善が期待できます。
一方で、十分な改善が得られない場合には、専門医療機関で神経に対する外科的治療などが検討されることがあります。
手術が必要となるケースは多くありませんので、まずは保存的治療から行うことが一般的です。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)は、腹壁の神経が圧迫されることで起こる腹壁痛の代表的な病気です。
胃カメラや大腸カメラ、CT検査などで異常が見つからないにもかかわらず腹痛が続く場合には、ACNESが原因となっていることがあります。
ACNESでは、痛む場所を指一本で示せることや、体を動かしたり腹筋に力を入れたりすると痛みが強くなることが特徴です。問診や診察を中心に診断し、必要に応じてトリガーポイント注射などの治療を行います。
一方で、腹痛の原因はさまざまであり、胃や腸、胆のうなどの病気が隠れていることもあります。自己判断せず、まずは内臓の病気がないかを確認することが大切です。
「検査では異常がないと言われたけれど腹痛が続いている」という方は、お気軽に当院までご相談ください。
